胃の疾患(胃の病気)
当消化器センターでは、多くの胃の病気(悪性疾患および良性疾患)に対し、各種治療を行っております。
内科医と外科医が一つのチームで診療にあたる当消化器センターでは、正確な診断に基づき、内視鏡的治療(ESD/EMRなど)から、小さな創で行う腹腔鏡下手術、開腹手術までを協力しながら行っております。また、ご病状により、当院腫瘍内科医ともチームを組み、術前・術後の化学療法も行います。
◆胃の悪性疾患(胃がん、転移性胃癌、胃悪性リンパ腫、胃間葉系腫瘍(GIST)、胃食道接合部癌など)
◆胃の良性疾患(胃腺腫、胃ポリープ、ヘリコバクター・ピロリ感染性胃炎、萎縮性胃炎などの各種胃炎、胃潰瘍、胃粘膜下腫瘍(胃平滑筋腫、神経鞘腫、迷入膵etc.)など)
1)胃がんの治療
はじめに
胃がんのうち約7割は早期胃がんであり、適切な治療を受ければ治る可能性が高いがんです。早い段階で発見できれば内視鏡で治癒可能ですし、あるいは手術が必要となってもよりお身体への負担が少ない腹腔鏡手術、縮小手術などの低侵襲手術が可能です。進行したご病状であれば、拡大手術でがんを確実に摘出した後に化学療法を追加します。ご病状によっては、手術前に化学療法を先行して行う場合もあります。
化学療法につきましては、当院腫瘍内科とも連携して行っております。
当消化器センターでは、日本胃癌学会の「胃癌治療ガイドライン」に基づき、各々の患者さまのご病状、ご年齢、併存症なども考慮して、治療法をご提案しております。
(図1)。
【胃がんの内視鏡治療】
内視鏡的診療では、これまでに世界的に最も普及した治療法の一つである『透明キャップによる内視鏡的粘膜切除術(EMR-C法)』【Inoue H, Endo M, Takeshita K,et al. Endoscopic esophageal mucosal resection using a cap-fitted panendoscope (EMRC). Gastroenterol Endosc. 1992; 34: 2387–2390】【井上 晴洋, 竹下 公矢, 遠藤 光夫, 他. 早期胃がんに対する内視鏡的粘膜切除術―透明プラスチックキャップを用いる方法(EMRC)―. Gastroennterological Endoscopy, Vol.35(3),Mar.1993】を開発し、その後も新たな治療法を開発し続ける 井上晴洋センター長 以下、熟練したスタッフが、診断・治療にあたります。先進性のみを追い求めることは厳しくつつしみ、積み重ねてきたデータによる最新のエビデンスに基づき、常に患者さんの利益を最優先に診療を行います。
【Ito H, Inoue H, Ikeda H, et al.
Surgical outcomes and clinicopathological characteristics of patients who underwent potentially non-curative endoscopic resection for gastric cancer: a report of a single-center experience. Gastroenterology Research and Practice. Volume 2013 (2013), Article ID 427405
】
【Ito H, Inoue H, Ikeda H, et al.
Clinicopathological characteristics and treatment strategies in early gastric cancer with undifferentiated component: a cohort study. J. Exp. Clin. Cancer Res. 2011;30:117
】
【胃がんの手術治療】
胃がんの手術は、胃の中の癌ができている場所やがんの深さ・大きさ・広がりによって胃切除の方法(幽門側胃切除術、胃全摘出術、胃局所切除術など)が異なります。
当消化器センターでは、術式の選択に関わる「胃の中のがんの広がり」を、手術前に正確に把握し切除範囲を厳密に選定するための拡大内視鏡観察を重点的に行っております。がんの位置から胃全摘術を選択せざるを得ない患者さまもおられますが、少しでも胃を残せる可能性につきましては、厳密に精査し残胃をできる限り残せるよう努めております。
また、当センターでは、一部の進行胃がんを除いたほとんどの胃がん手術を腹腔鏡下手術で行っております。腹腔鏡下手術は、小さな創から腹腔内を観察するカメラ(腹腔鏡)をお腹の中に挿入し、さらに手術操作を行うための鉗子という器具を小さな創から挿入して、術者と助手がモニターを見ながら操作をすすめる手術のことです。
5つの小さな創で胃がんの腹腔鏡下手術を行っています。
当センターでは、胃切除後の再建(消化管吻合)も、腹腔鏡下で完全体腔内吻合を行っています。その中でも、特に技術的に難しいとされている 完全体腔内吻合による腹腔鏡下胃全摘術 では、世界トップクラスの安全性を達成しています。【Ito H, Inoue H, Odaka N, et al. Evaluation of the safety and efficacy of esophagojejunostomy after totally laparoscopic total gastrectomy using a trans-orally inserted anvil: a single-center comparative study. Surgical Endoscopy. 2014;28(6):1929-1935】。
わたしたちは、安全かつ確実な消化管吻合(再建)を行うために、手術中に必ず口からの内視鏡も併用し、消化管内腔からも確認しながら吻合を行っています。労を惜しまない手術は、高い安全性、術後のスムースな回復に大いに貢献していると考えています。長い歴史のある日本の胃がん手術は、世界をリードしてきました。しかし、改善の余地は必ずあるはずです。わたしたちは、自分たちの手術をきちんと評価し、常にさらなる向上を心がけています。【Ito H, Inoue H, Odaka N, et al. Prognostic impact of prophylactic splenectomy for upper-third gastric cancer: a cohort study. Anticancer Research. 2013;33(1):277-282】
また、胃切除後は、胃が小さくなったり、なくなってしまう(胃全摘の場合)ため、1回の食事摂取量が少なくなるだけでなく、栄養の消化吸収も低下します。特に、胃全摘術を行った患者さまの場合、体重減少率は約10~30%にも及ぶとの報告もあります。
このため、当センターでは、手術前検査で胃の中の癌の広がりを正確に把握するための拡大内視鏡観察を重点的に行っております。切除すべき範囲を正確に把握することで、残せる正常範囲の胃は、極力手術で残すよう努めております。
胃切除後は、患者様の食生活の変化や体重減少、体調の変化に対して、退院後も胃癌術後の定期観察とともに、サポートをして参ります。
胃癌の治療・ご病状のご相談は、胃癌専門外来(火曜日:井上晴洋教授外来/鬼丸学医師外来、木曜日:伊藤寛晃医師外来)にてお気軽にご相談下さい。
専門外来のご予約につきましては、病院予約センターまでご連絡下さい。
2)胃粘膜下腫瘍(消化管間葉系腫瘍GISTを含む)
胃粘膜下腫瘍とは、胃粘膜の下層に発生する腫瘍のことで、胃癌やポリープなどの粘膜から発生する腫瘍とは異なります。多くは無症状で、しばしば検診で発見されます。粘膜下腫瘍の大部分は良性腫瘍ですが、ときに肝臓や腹膜に転移を来すような悪性腫瘍であることもあります。
一般的に、胃粘膜下腫瘍は、腫瘍の大きさが、2cm以上で精密検査、さらに治療(手術)が必要になる可能性があります。また、2cm未満であっても病理組織診断で消化管間葉系腫瘍(GIST)と診断されたもの、もしくは腫瘍に変化(大きくなったり、形が変わってきたなど)がみられる場合も精密検査・治療(切除)が推奨されます。
当消化器センターでは、この胃粘膜下腫瘍の精密検査・治療(内視鏡的治療、腹腔鏡下手術など)を積極的に行っております。
現在おかかりの施設や検診などで胃粘膜下腫瘍と診断されているが治療が必要かどうかわからないという方や、ご不安をお抱えの方なども、お気軽に当センター専門外来でご相談下さい。
胃粘膜下腫瘍専門外来は、火曜日:井上晴洋教授外来/鬼丸学医師外来、木曜日:伊藤寛晃医師外来)でご相談をさせていただきます。外来のご予約は、病院予約センターまでお問い合わせください。)
【胃粘膜下腫瘍(内視鏡画像)】
【胃粘膜下腫瘍(SMT)の治療方針:GIST研究会・診療のガイドラインより抜粋】
【胃粘膜下腫瘍(SMT)の治療について】
当消化器センターの最先端治療《CLEAN-NETとPOET》
GIST研究会の診療のガイドラインをもとに、患者様の全身状態や粘膜下腫瘍の病態を考慮して診療をすすめております。
治療(切除)が必要な患者様につきましては、精密な画像診断をもとに、胃内の粘膜下腫瘍のできている領域(場所)や大きさなどにより、患者さんごとに最適な治療法をご提案しております、
胃の入り口付近(噴門といいます)にできている胃粘膜下腫瘍に対しては、お腹を切らずに胃カメラを用いての治療(内視鏡的粘膜下腫瘍摘出術:POET)を、胃の入り口(噴門)にかからないほとんどの胃の粘膜下腫瘍に対しましては、腹腔鏡下手術による胃局所切除術(CLEAN-NET)を行っています。内視鏡治療であるPOETと腹腔鏡下手術であるCLEAN-NETは、当消化器センター・井上晴洋センター長・教授が開発した当院独自の最新治療です。
※注:これらの治療法は、粘膜下腫瘍の大きさや、胃内のできている領域(場所)によっては、適応にならないことがあり、この他の最適な治療法をご提案させていただくこともあります。特に5cmを越える大きな胃粘膜下腫瘍の場合は、開腹手術による切除をお薦めする場合があります。
この他、既に他の臓器に転移をきたしている場合や、手術後の病理検査で再発が危惧される場合には、分子標的治療薬(イマチニブなど)による治療が考慮されます。
POET
[内視鏡的粘膜下腫瘍摘出術]
主に、胃の入り口(噴門)に発生した胃粘膜下腫瘍に対し行っている口からの内視鏡で行う治療法です。前述の食道粘膜下腫瘍に対する治療としても行っている方法であり、内視鏡下で粘膜下層にトンネルを作成して腫瘍を摘出する内視鏡的粘膜下腫瘍摘出術(POET: per-oral endoscopic tumor resection)【Inoue H, et al. Endoscopy. 2012】です。治療方法の詳細につきましては、「食道粘膜下腫瘍」の項をご参照ください。
CLEAN-NET
[腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除(LECS:Laparoscopic and endoscopic cooperative surgery)関連手技]
CLEAN-NET(combination of laparoscopic and endoscopic approaches to neoplasia with non-exposure technique)【 Inoue H, et al. Surg Oncol Clin N Am. 2012】とは,口から挿入する通常の内視鏡と腹腔鏡手術の組み合わせて行う手術法であり、胃の腫瘍を含めた胃の一部を部分的に切除(全層切除)する方法です。内視鏡と腹腔鏡という二つのカメラを使って手術をすることで、切除する胃をできるだけ最小限にとどめる精度の高い低侵襲手術を実現しています。
胃粘膜下腫瘍や早期胃癌のち高度瘢痕症例などの、内視鏡的治療困難例/非適応例に対し行っております。特に、約2~5cmほどまでの胃の内腔に突出した胃粘膜下腫瘍に対しCLEAN-NETは良い適応と考えております。
この治療法は、当センター長の井上晴洋教授が開発した方法ですが、腹腔鏡手術を行いながら口からの内視鏡も併用して行うことからも、がん研有明病院で行われている.腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除(LECS:Laparoscopic and endoscopic cooperative surgery)関連手技の一つとされています。
【CLEAN-NET:全身麻酔下に、手術中に口からの内視鏡を胃内に挿入し、腫瘍の周りの切除予定範囲に印をつけます。】
【CLEAN-NET:口からの内視鏡で胃内を見ながら、胃の外から腹腔鏡手術を進めます。】
【CLEAN-NET:口からの内視鏡と腹腔鏡手技を進め、胃の外側から腫瘍の周りの切除予定線に沿って、胃壁の一部を切開し、腫瘍とともに胃壁外(腹腔内)に持ち上げます。もち上がった腫瘍と胃壁の一部に自動縫合器をかけてこの部のみ切除します。(左図から右図への説明)】
※切除した組織は、腹腔内から臍部の創を通して体外に回収します。
【CLEAN-NET症例1(胃粘膜下腫瘍):腫瘍周囲の胃壁に外側から切開をいれ、腫瘍ごと胃壁外(腹腔内)に引き上げ、このあと切除する手技に移ります。】
【CLEAN-NET症例2(早期胃がん):早期胃がんを含めた切除予定線に沿って胃壁の一部に切開を入れた後、胃壁外(腹腔内)に引き上げ、自動縫合器で胃局所切除(部分的切除)を行います。】